導入事例5

株式会社プラルト

犬飼社長 / 石原常務

全台切り替えで工場を水なし化
品質安定、乾燥時間の短縮など理想の印刷へ一歩

長野県松本市の株式会社プラルトは2017年8月、印刷品質の一層の向上と安定を目的に、本社工場で稼働するオフセット枚葉印刷機5台すべてを水なし印刷へと切り替えた。導入から1年が経過し、当初予想していた品質の安定と乾燥時間の短縮に加えて、現場の研究意欲が高まるといった波及効果も生まれている。先頭に立って水なし化を進めた石原隆常務取締役は「水の影響を極力減らすことで、理想の印刷を実現したい」と、新たな挑戦への期待を語る。

常に高い新たな高みへ挑戦する風土

プラルトは1952年に中信凸版印刷所として創業して以来、一貫して顧客の販促・情報発信ツールの制作を得意としてきた。企画・デザインから印刷までを一貫して社内で手がけるコンテンツ制作力も強みだ。

そのコンテンツのアウトプット先は紙だけに止まらない。2005年にWeb事業部を発足。2016年にアジアデザインアワード「DESIGN OF THE DAY」を受賞して以来、3年連続で海外のアワードを受賞するなど国内外から高い評価を受けている。

2016年にはUVプリンターを導入し缶バッチやアクリル等さまざまな素材に対する印刷加工にも事業領域を拡大してきた。

意欲的な取組みを続けるチャレンジ精神が社内風土として醸成されている同社では、当然ながら印刷品質への思い入れも強い。1992年には、独自の高精細印刷技術「ハイビジョン印刷」の開発・実用化に成功。通常の印刷では難しい色も再現できるため、宝飾メーカーや工業製品メーカー、カメラマン、デザイナーなどから根強い支持を得てきた。

「PRINT(印刷)」と「ART(アート)」をかけ合わせたプラルトという社名も、付加価値の高い印刷物の提供を通じて顧客に貢献していく同社の決意を表している。今回の水なし印刷の導入も、高品質な印刷物の安定生産が最大の目的だった。

「印刷工程において、湿し水が原因のトラブルは山ほどある。常に水の管理との勝負で、そこを怠ると事故につながる」と語る石原常務は、水の影響を極力減らすことで、理想の印刷が実現できるのではないかと考え、水を絞る印刷に挑戦した。結果としてポジティブな効果も多々あったが、水に起因するトラブルがなくなることはなく、水なし印刷を検討しはじめた。

実は、同社では約20年前にも水なし印刷を試したことがあったが、その際は思うような成果が出ずに断念した経験がある。石原常務も「水を使用しないのが理想的な印刷方式」と考えているものの、実際の運用については「半信半疑だった」と振り返る。

しかし、導入企業を訪ねて現場や経営者から直接話を聞くうちに疑念も晴れていった。そして、実際に社内でテストを行うと、オペレータも好評価を与えた。

とんとん拍子で導入が決まったが、そこで同社は工場の全印刷機を一気に水なし印刷方式へと切り替える大胆な決断を下す。「やるからには思い切って変えないとだめだ。変化の激しい時代にもたもたしてはいられない」という犬飼社長や石原常務の強い決意を受け、会社一丸となって水なし印刷工場へと生まれ変わった。

採用後に発揮された驚くべき時短効果

導入から1年が経った現在、すでにさまざまな改善効果が生まれた。特に乾燥時間は、石原常務いわく「驚くほどの効果」が出ている。

最も顕著なのが特殊紙だ。以前は乾燥までに最低でも12時間以上かかっていたため、両面印刷には2日を要していた。それが現在は6時間から8時間となり、朝一番で印刷すれば夕方には裏刷りにかかることができる。

また、コート紙でもその効果は大きい。これまでは後工程へ送るのに1日寝かせる必要があったが、現在は絵柄によっては数時間で乾くため、より効率的な生産が可能となった。

品質面では網点がより鮮明に出ることから、1枚目から最後までΔE3以内に収めることを基準に運用、石原常務も「以前より安定性が高まった」と手応えを感じている。ジャパンカラーのマッチング認証も取得した。

また、これまで作業全体の9%を占めていたメンテナンス時間が6%に減少するなど現場の作業負担も減少。印刷部の田中係長は「水回りがなくなり、作業終了後のメンテナンスはかなり楽になった」と実感を話す。段取り替え時間も14%から11%へ短縮している。

社員の意識改善や労働環境改善への期待

現場の意識改善にも効果が表れている。石原常務は「以前はトラブルが起きても深く追求することが少なかったが、今は要因を突き止めようとする研究心が現場に広がっている」と変化を語る。また、研究材料の一つとして、現在は水なし印刷の強みでもある特殊原反へのテストを重ねており、他社との差別化につながる特殊紙への高精細印刷には大いに期待している。 さらに、一般社団法人日本WPAの環境ロゴ「バタフライマーク」を活用した環境対応印刷も訴求していく考えだ。

日本山岳写真協会松本支部とのコラボレーション商品として販売している「稜線カレンダー」。1993年の発売当初からハイビジョン印刷によって美しく再現された山岳美が好評を得ているが、2019年版にバタフライマークを初めて採用した。

同社では「働き方改革」の一環として、各部門で「現場第一主義の職場環境整備」に努めている。工場内の温湿度は1年を通して最も働きやすい数値で管理され、作業負担の軽減を目的に紙揃機や用紙反転装置なども導入した。

こうした、働きやすい職場づくりの観点から見ても、有害な化学物質の使用を抑える水なし印刷を採用する意味は大きい。犬飼社長は「印刷工場の環境整備は水なしでないと上手くいかない」と語るなど、労働環境改善の側面からも水なし印刷に期待している。

高精細印刷技術を駆使した
「稜線カレンダー」

水なし印刷に日々取り組む印刷部のメンバー

株式会社プラルト
代表取締役:犬飼金男
長野県松本市笹賀5985
U R L:https://www.prart.co.jp
導入日:2017年8月