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カーボンオフセット

2009年05月18日

CO2排出量「見える化」と課題 田端久義会長が提言

印刷専門月刊雑誌「印刷界」、2009年5月号に田端久義会長の提言録が掲載された。本内容はその転載である。
水なし印刷を軸に排出量削減ヘ 精度の高い算出を効率的に実現
田畠久義
日本水なし印刷協会 会長
日印産連カーボンフットプリント準備委員会 委員
業界に先駆けて環境保全へ取り組んできた日本WPA(日本水なし印刷協会、田畠久義会長・�久栄社社長)は昨年よりカーボンフットプリント研究会を発足し、CO2排出量の算出について調査・研究を進めている。昨今、さまざまな分野でCO2排出量の「見える化」が注目を集めるなか、印刷業界でも環境負荷に関するデータを開示する取り組みが広がりつつある。CO2排出量の増減のみにとらわれるのではなく、総合的に環境負荷を考えていくことが重要である。日本WPAのこれまでの研究成果やカーボンフットプリントから見る印刷業界について田畠会長に話を聞いた。
水なし印刷の視点からCFPを調査・検証ヘ
2008年6月に福田ビジョン「『低炭素社会・日本』をめざして」が公表され、印刷業界でもCO2排出量の算出に向けて動きが⊇凧に活発化した。そのようななかで、昨年の夏、(社)産業環境管理協会から要請があり、製品グリーンパフオーマンス高度化推進事業に日本WPAから弊社を含む7社が参加することになった。
 さらに、日本WPAでは研究会を発足させ、適性やカーボンフットプリントとCO2削減印刷などを紹介した。
 弊社には四六全版の同機種の印刷機が2台あるため、B5カラーチラシ一万部を水なしと水ありでそれぞれ印刷する実験を行い、環境への負荷を工程ごとに明確化した。その結果、今回の実験では、紙の製造段階を除く印刷時のCO2排出量は、版の製造でおよそ全休の4分の3を占め、次にインキ製造、印刷工程と続いた。しかし、印刷部数をはじめ、さまざまな条件で排出量は変化する。
CO2排出量だけでなく総合的に負荷低減を図る
環境負荷は単純に排出量だけで判断できるものではない。例えば、グラビア印刷で設置されているVOC回収装置は、その装置自体の製造や運転に資源や電力を使う。しかし、VOCの排出は規制されているものであり、回収装置は大気汚染を防ぎ、環境負荷を低減するために矢かせない。エネルギーやコストをかけるからこそ環境への負荷が低減されるものもある。環境を保全するために使うべきエネルギーがある。それは必要最低限のCO2排出であるといえる。CO2排出量だけで環境負荷低減を図るのではなく、総合的な観点から把握することが重要である。
 カーボンフットプリントに取り組むにあたり、オフ輪、パッケージ印刷、商業印刷では当然、立場もとるべき対策も変わってくる。よって、日本WPAではカーボンフョトプリント研究会のなかに商印オフセット印刷部会を設置した。現在、2次データの入手先や算定範囲(バウンダリ)など日本WPAのなかで一定の共通ルールを作り、より精度の高い算出方法を確立している。やはり1社だけでしか通用しない基準では信頼性も薄い。
 日本WPAではLCA(ライフサイクルアセスメント)の観点で、できる限り実際に計測した正確な数値を出すことを趣旨としている。排出量の具体的な計算方法などは経産省や日印産通での動向を見ながら日本WPAのなかで今後も取り組んでいく課題のひとつである。
LCAの観点を基本として精度の高い算出方法を検証
弊社は、現段階では実際の印刷時に排出量を計測しているため、事前に排出量を想定してその印刷物に排出量の正確な数値を表示することはできない。しかし、今後データが蓄積され、関数ができれば、印刷物にある程度正確な数値を表示することも可能となる。
 実際に経産省や日印産連でPCR(商品種別算定基準)が策定されると、細部にまでわたらず、大まかな基準になる可能性もある。
万一、部数やページ数だけで排出量を算出するようになってしまったのでは、それは正確な数値とは決していえないだろう。印刷機のメーカーや機種ごとに特性があり、実際の数値も変わってくる。精度を求めるばかりに、計測が企業の重い負担となってはいけないが、一度は実際に計測してみてもいいのではないか。実験をして初めて明らかになることもある。
 印刷機の使用電力は計測器を設置することで可能ではあるが、紙やインキの排出量は2次データに頼らざるをえないため、その2次データの信頼性も重要だ。さらに使用・維持管理段階や廃棄・リサイクル段階などは予測のつかない部分も大きい。
 本年3月に、有識者による「CO2排出量の算定・表示・評価に関するルール検討会」においてカーボンフットプリントの指針が出されたが、それによると、LCAの手法を活用し、原料調達から廃棄・リサイクルに至る商品のライフサイクル全体を通して算定すべきとされ、排出量は一販売単位を絶対量で表示するよう記されている。最近、有利な部分のみを取り出してCO2排出量を算出するものや、他の製品や従来の製造方法と排出量を比較して、マイナス表示や削減率表示をしているものが見受けられるが、カーボンフットプリントの今後の方向性ではない。
排出権取引市場の将来性 マイナス6%実現へ向けて
日印産連ではカーボンフットプリント準備委員会を設置し、試行PCR策定自主ワーキンググループも発足した。同ワーキンググループは経産省が発案したもので、PCRを策定するのが目的。印刷関連では印刷と梱包資材のグループがある。実際にPCRの運用を検討するのがカーボンフットプリント準備委員会となっている。
業界でPCRの策定を進めていくなかで、算定範囲やカットオフ基準、アロケーション(配分)など、どのレベルまでを含めるのかを見極めることが難しい。印刷では使用・維持管理段階での排出はなく、範囲外とされるのが一般的だが、逆に他の業界には使用時に排出量が多いものもある。業界によってさまざまだ。これから細かなシナリオの策定が進められるが、あまりに大まかな基準であっては数値の信頼性にも疑問が残ってしまう。
また、現在、日本には排出権取引の市場がない。よって、排出権は外国から買わなければならない。今回の排出量の算定は、将来実現するであろう、排出量の企業闇取引を見込んでいるともいえる。国内市場をつくり、日本の資金が国内の環境改善のために使われるシステムに変えなければならない。また、排出権取引に限らず、測定データはさまざまな分野で活用できる。
弊社ではグリーン電力証書システムをカーボンオフセットに利用している。グリーン電力証書システムとは、自然エネルギーによって発電された電力のCO2削減や化石燃料削減といった環境付加価値を具現化し、自主的に省エネルギーや環境対策に利用できるようにしたもの。風力、太陽光、バイオマスなど、どのグリーン電力を使うかを選べる。京都議定書の削減目標を達成するにはこのような事業がどこまで成功するかが鍵になる。
さらに、弊社では排出量を抑える「カーボンオフセット設計」を推奨している。用紙削減として損紙の少ない水なし印刷の採用や用紙を薄くすることでCO2排出量の削減が可能になる。また、電気消費量削減のために両面印刷の採用やインキ消費量を減らすために高精細印刷を用いるなど対策を実施している。今、顧客のほとんどは価格を基準にサービスを選んでいるが、将来、新しい基準としてCO2排出量で選ぶようになるかもしれない。
排出量の「見える化」は企業にも有効なツール
 カーボンフットプリントはJIS、ISO化か予定されている。テクニカルスペツク範囲でのJIS化か2010年頃。2011年には正式にJIS化、ISO化されると言われており、ISO化に向けて20カ国が参加している。それにあたり日本の立場を明確にし、主導権をとっていくためにも、今、急速に準備が進められている。将来、マークを使用するにはISO認証の取得が必要となる。カーボンフットプリントがどこまで一般的なものになるかは、まだ未知数だ。
 カーボンフットプリントは消費者が同種の製品のなかから、より低炭素なものを選んで購入できるようにすることが目的のひとつだが、一概にCO2排出量が少ないものが環境負荷も低いわけではない。むしろ、排出量の「見える化」は企業側にとって排出権取引の前哨戦であり、排出量の少ない製品作りを推進し、さらなる削減のためのツールである。
それぞれの製造段階での排出量が明らかになり、課題も見えてくるだろう。排出量削減へ犬きくつながることが期待できる。確かに、カーボンフョトプリントが普及することは意義のあることではあるが、どの企業も簡単に表示ができるのでは信憑性が薄く、混乱を招く。統一ルールのもとで、正確な数値が表示されるシステムにしなくてはならない。
これまでの研究成果を業界に伝えていく意義
 日本WPAは、産業環境管理協会の指導のもと、今後もより精度の高い算定を効率的にできる方法を打ち出し、差別化を図っていく考えである。水なし印刷のなかで、いかにCO2排出量を減らせるかを研究していかなければならない。環境対応の印刷を早くから打ち出してきた日本WPAとして、これまでの成果を業界に反映させていきたい。