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2009年04月18日

5年後の印刷業を展望する

印刷新報21年4月16日号に表題の記事が日本WPA事務局長の寄稿で掲載されたが、その内容を以下、転載させていただいた。
●従来型印刷ビジネスの変容 
世界金融危機による世界不況は、我が国は他の先進国より影響を受けにくいと、言われていたが、実態は世界全地域での需要減に見まわれ、貿易立国の構造そのものが揺らぎだしてきている。国内需要の喚起、産業構造の作り替えと掛け声はかかるが、実体経済の舵の切り替えはすぐにできるものでもない。
さらに、人口減、少子化、高齢化がこの不況と重なり、印刷物を受注して作ると言う、旧来の印刷ビジネスモデルは急速に形骸化されてゆく。
その一方、多様な情報伝達メディアの誕生と実用化が図られてくる。ITとつながる電子メディアのインフラはますます整備され、ケータイ、PCラジオはもはや、費用対効果の高い媒体となりつつあるのではないか。
デパート、量販店の売上高の減少し、コンビニ売上も頭打ちとなる一方、ユニクロの躍進、通販の躍進はまさに成熟化社会を象徴した事象ではあるまいか。
●循環要因と印刷産業の第2の波
印刷物に目を転じると、今後ますます消費者の環境意識が高まり、商品製造・流通・破棄で起きるCO2の明示化が一般化してこよう。当然、印刷物にもCO2消費量を明示するようになってくる。印刷物の80%方は紙によるCO2消費量であり、ペーパーを軽減させた情報伝達にますます磨きがかけられてくる恐れがある。CO2の多消費物の紙と電子媒体とを組み合わせ、CO2削減を図る動きが加速されてくるのではないか。つまり、CO2の見える化がクロスメディア化への加速が進められて来る。
流通業、製造業の合理化が進み、総需要が伸びない中ではワークシェアリングがはやり出してくる。すると、人々は米国並みに別の仕事(休日中のアルバイト)を探し出す。このとき、人々は印刷産業にはなだれ込まず、印刷物に置き換わる、チラシに置き変る、ケータイメディアの仕組みなどに人々は群がる。つまり、第2の印刷物の置き換えの波が起こってくるのではないか。第1の波とはデジタル化で、印刷の固有技術がPCの色加工ソフトとか、wordとかに組み込まれてしまい、印刷界の固有価値が大幅に流出してしまった経緯があった。第2の波は製版でなく、印刷そのものが流出してゆく可能性がある。
我々は業界内の価格競争に目が行きがちであるが、もっと大きな視点から、足元を見つめ直さないと自らの存立基盤を弱めて行く。
●印刷方式にも新しい概念が必要
印刷の方式も作りかえる必要がある。版に合わせて色出しするのが、今の印刷機である。水なしキーレスアニロックス・インキング印刷機を米国のネット通販・OvernightPrint.comの子会社、Printfulfillment.comは8台も採用していた。Overnight 社は、創業4年目で年商150億円の売り上げに持ってきた、全米第2位のB2C印刷ネット通販の会社である。驚くことに、8台の印刷機は完全にCMSがとられた状態で使われている。この印刷機では壷キー調整でなく、色調の調整はトーンカーブの修正で行うことを意味する。いわく、製版に戻して色を整えるやり方を意味する。むろん、すべての印刷物はこの方式でこなせられるものではなかろうが、多くの割合の実用印刷物は、壺を平らにして刷る疑似デジタル印刷方式でこなせられるであろう。印刷物にますます、求められるものが、即時性と生産コストの低減であろうが、付け合わせ印刷が脚光を浴びてくる中で、この方式は誠に好都合なものと判断する。
さらに、FM15ミクロン、広演色インキと言う要素を付加すると、色域再現性が広がる上にインキ量の軽減が図れる。これは環境負荷面からも無視できない要素となろう。
●日本でも印刷ネット通販が普及か
印刷ネット通販は我が国ではB2Bの形のものが目に付くが、近い将来、米国の後追いではないが、B2Cの形が普及してくるものと思われる。
ワークシェアリングが一般化してくると、兼業労働が欧米の事例を見ても増えてくる。有効求人倍率の低下は、個人企業主の誕生を加速させよう。米国の印刷ネット通販の大きな需要層は個人企業主なのである。いわく、企業の看板に相当するのが印刷物であり、個人webとその補完印刷物は小企業ととっても事業運営の必需品となってこよう。
カラー年賀状は最近では、CD-ROM付き年賀状イラストを買いこみ、自分のPCで年賀状を制作する方が増えてきた。こと、その費用面では自分のプリンターで打ち出しても、時間はかかるうえに、プリンターのインキ代もばかにならない。下手にプリンター出しをしているより、ネットの年賀状通販に頼むとか、コンビニに年賀状印刷を頼んだ方が安いかもしれない。
米国のネット通販はフラッシュ上で動く、サイトに内蔵された軽いDTPソフトで動かせるので、DTPソフトをPC側にインストールしていなくとも使える。その上、サイト上には豊富なテンプレートが搭載されていて、いわば、日本の「CD-ROM付き年賀状イラスト」本がネットに上がっている感覚になっている。よって、誰もがこんな便利道具を使いたくなってしまう。印刷物を作るのはよいが、校正を見るのも厄介な仕事だ、と印刷ユーザーはささやいている。印刷物を作っていただくにはこのような消費者の阻害要因をきめ細かく排除してゆくことが、端物印刷物の拡販につながるのでないのだろうか。
●ケータイ活用の販促手法が広がる
社会変化の中で見逃したくないものが、ケータイの動向である。最近、あるケータイキャリアプロバイダーが月額数千円の固定費用でホームページが作れる、一定量の会員向けメール送信ができる、来店ポイントがケータイをかざすだけでできると、小企業商店主とか、脱サラの方々を集めての代理店説明会の場に出させていただいた。日曜日の昼と言うのに、狭い場所に100名あまりが駆けつけ、熱心に聴講する聴衆の姿とこの仕掛けをした社長の話す内容に驚かされた。ケータイが今や、メディアであると彼は言い切る上、「チラシを出しても今やその反応率の悪さで効き目がないでしょう。」、「メール会員を独自に募り、イベントを考えてメールをまめに配信すると、そのコストパーフォーマンスはチラシの数10倍にも上がるのだ。」と。彼らは完全に、チラシの置き換えを進めていて、その成功事例の話をCD-ROM版に作り込み、350円で販売していた。仕掛け主の主催者・社長に聞くと自分には不況と言う言葉はないと言う。まさに、典型的なチラシの置き換え需要をケータイに取り込んでいる事例である。聴講者の中に、宝石商の方がいたが、自分のいる商店街では今や、シャッター通り化してきていて、これから脱皮するためにこのビジネスに取り組みたいとしていた。印刷物の置き換えに加担する人々が知らない間に増えていることを心せねばならない。
●クリエイティブ能力と効果の見える化を強みに
宅配型フリーマガジンの仕事に20年間携わらせていただいたが、この領域でビジネスを伸ばされている会社がある。この会社は先代から2代目社長に事業が引き継がれてから、見違えるように業態を変えてこられた。便利屋で勝負の、印刷営業マンに見切りをつけ、ライティング(クリエイティブ)能力を身につけた営業レディを多用し始めた。発注者にとって印刷物を作る上での大きな負荷とは、原稿を作ること、校正を見ることであろう。日々顧客に出入りしている印刷営業マンが顧客の意向を読み取り、意をくみ取ってコピー・ライティング、簡易なデザインをしてあげると、印刷物は自分たちのペースで出てくると申されている。この会社では新人を養成して、編集能力を身につけた営業レディを育て上げている。1年で給料以上のことをしてくれると言うから、このビジネスモデルは見逃したくない。
地域に密着したフリーペーパー事業は新聞読紙率がますます低下してゆく中で、その代替えメディアの地位を築く絶好の機会(チャンス)となってきているのではないのか。
パリッシュ出版は宅配フリーマガジンを出している一方で、My Stageと言う消費者ネットワークを作っている。消費者の広告反応を読み取れる仕組みであり、他方、地域の才能を持った女性が働ける場を提供している面白い組織である。
印刷物のメディアの弱みは、広告広報の成果が読み取りにくいという点である。PCを持った、My Stageのワーカーの手を借り、迅速に印刷物の反応と効果を読み取り出来る仕組みを作っている。この組織を作り上げるのは大変であったが、反応読み取りのできる印刷物が誕生できると力強い武器となってくれよう。
●地域活性化こそ印刷ビジネスの原点
印刷企業の強みとは何であろうか。地域に密着した企業として、地域起こしの中核企業として汗をかいて行く。仕事漁りの提案営業の中からだけでは大きな印刷物は生まれてこないのではなかろうか。地域を起こし元気づかせる中から、価値ある印刷コンテンツが生まれ、最終的に印刷物に落とし込まれて来るものと確信する。これが成熟化社会の現象とでもいえるのでないのか。ちょっとした情報は、わざわざプロの印刷会社に頼まなくて済むようになってきつつある。地域起こしの中から、消費者に密着した中で、真に世に役立つ印刷物が生まれてくるのだ。
米国でfulfillment serviceと呼ばれている事業内容は我が国では、ワンストップサービスと表現されている。このfulfillment serviceは今後とも、我々にとって、一つの事業領域になってくるのではあるまいか。用済みになった印刷物は最終的には破棄されてゴミ処理場へ行く。これを組織的に、用済み印刷物を回収し、再生することにつなげることで、これからの循環型ビジネスモデルとなっていこう。これなどまさに、地域密着の形で機能していくのではないだろうか。
グーテンベルグから続いた、印刷術と印刷業の脱皮を求められる時代に入ってきていると受け止めている。