日本WPA : Japan Waterless Printing Association

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日本WPAの活動 - その他の活動 -

Yano Report 2008.3.25 〜水なし印刷の現状 Pa r t2~

2008年3月30日

Part1(3/10号)では日本WPAと東レの取り組みを中心に、水なし印刷を取り巻く状況を紹介した。この号では、実際に業務を行っている日本WPA会員の印刷会社の取り組みを紹介する。

久栄社

水なし印刷効果で売上増
80年代より全台水なし専用設備整える

久栄社は、1930年創業以来カラーオフセット印刷において、企画デザインから製版、印刷、加工、発送まで印刷の全てのプロセスを自社グループ内で一貫して行っている印刷会社である。
水なし印刷の導入は、1986年に前社長(現会長)の指導のもと行われた。導入当時から全台を水なし印刷機仕様に替えるという抜本的な改革を行った。これには、スキルレス、高品質といった仕事に直結した水なし印刷の利点を活かしたいという意図があった。もう一方の環境面という部分には注目していなかったという。当初は新しい印刷方式であったため、製版様式が合わなかったり、印刷トラブルが多発したりと苦労したが、その試行錯誤の中で、環境面での利点に気づき、独自でマークを作成し、営業を行った。90年代に入り、アメリカでWPAが創設され、日本でもにわかに水なし印刷が注目され始めた中で、東レからWPAの紹介を受け、2000年にはWPAに加盟する。2002年には日本WPA設立に貢献する。また水性ノンVOCをサカタインクスと共同開発し、国内印刷会社の中で3番目の早さでFSC森林認証も取得した。現在は、水なし印刷、大豆油・ノンVOCインキ、FSC認証用紙の3点セットで、「環境対応印刷」を売りに営業活動を行い、売上を伸ばしている。
2007年度(2007年11月期)の売上高は、33億5,200万円で、そのうち印刷業での売上は約9割を占める。水なし印刷の売上高は約16億円で、印刷業全体の売上の約53%を占める。2006年度(2006年11月期)の売上高は32億5,600万円、水なし印刷の売上高は約15億円であり、前年同期比は全社売上で2.9%増、水なし印刷の売上で6.6%増とともに増収している。水なし印刷の需要増が全体の売上増に貢献している。水なし印刷における営業体制は、専用の新規開拓部隊が東京本社に2チームあり、1チームあたり4〜5人体制となっている。既存の取引先には営業部の各担当が対応している。水なし印刷設備は千葉第一工場にあり、枚葉印刷機が4台入っている。同社の設備は、枚葉印刷機のみであり、他の印刷方式の仕事や容量オーバーの場合は、外注している。今後は、08年5月に菊全判の1色機を導入し、単色モノの印刷効率を上げる構想を持っており、また6月には、老朽化に伴い四六全判を入れ替える予定である。
受注している印刷物は、IR関係のパンフレットや環境報告書が主で、民間企業のほかに官公庁の仕事も請け負う。ただ、官公庁の入札資格はグリーン購入法が基準となる。そのため、水なし印刷の利点を活かし切れない(水あり印刷でもその対象項目はクリアできる)面もある。映画関連の印刷物は、全社の売上で約3割を占め、水なし印刷の品目別売上推移では42%増だが、これはあくまでも全台水なし専用機である社内で印刷されているということであり、現状は、顧客からの水なし印刷指定(バタフライマークの使用要望)はほとんどない。最終ユーザーに捨てられにくいという特性上、制作時には「丈夫」「劣化しにくい」ということに焦点が当てられていると思われる。
SP関連の印刷物は、種類、量が多く、顧客側も数社に発注しているケースがほとんどであり、バタフライマークを統一して付けられないという点から、なかなか水なし印刷の需要が高まってこない。発注価格の整合性や古くからの取引関係による信頼感などから、顧客が発注先を代えることは容易ではない。それよりも、水なし印刷を普及させることが、受注品目の幅を広げると考えられる。
顧客を業種別に見ると、製造業が58%と半数以上を占める。近年は、この製造業での水なし印刷需要が伸びてきている。主に電機メーカーや自動車メーカーなど。サービス業ではまだ需要は少ない。あくまでも同社は、環境対応印刷を押し付けるのではなく、ニーズに対応する姿勢で営業活動をし、今後は需要が増えているIR関係のパンフレットや環境報告書での受注量を増やしていく方針である。
印刷資材については、水なし版は東レの各種を使用している。今後は、07年9月のIGAS2007で出展されていた水なしケミカルCTP版「INNOVA(イノーバ)」に注目していく。この版をPRしていくことによって水なし印刷の環境保全への貢献度のPRにつながると考えている。インキはサカタインクスの「ダイアトーン水無しエコピュアSOY」と東洋インキ製造の「アクワレスエコーネオ」、大日本インキ化学工業の水なし専用インキを使用している。2002年にサカタインクスと共同開発した鉱物油を含まない100%植物油配合の水性ノンVOCインキ「ダイアトーン水無しエコピュアSOY CL」の使用量は、同社が使用している大豆インキの10〜15%とまだ少ない。環境対応印刷をさらに追及するにあたって、このインキの使用量を増やすことが課題とも言える。
現在、印刷物を制作する過程に対応した認定マークが多いが、同社は、今後印刷物の後処理についても環境に対応していく必要があると考えている。印刷物は古紙として再生されるが、その品質ランクが印刷物を一目見ただけで分かるマークの提案を進めており、印刷産業の環境対応への新たな方向を探っている。
同社は、環境に対する社会的意識の高まりを背景に、水なし印刷のニーズは今後もさらに増えると考えている。そのニーズをしっかりと掴み、受注につなげる戦略をたてる一方で、環境対応印刷と並び、新たな柱として「色覚ユニバーサルデザイン」を加えていく。現在、色覚障害(色覚不足)者は男性の20人に1人、女性の500人に1人の割合と言われている。日常生活で支障をきたすということもないため、自覚している人は少ないようだ。この割合を見るとその必要性は十分あると思われる。具体的には、自社、他社問わず制作された印刷デザインを同社所有の「色覚ユニバーサルデザイン」対応設備を使い、誰にでも見やすい、正確な情報を得られる印刷デザインになっているかを検討し、チェックを通った印刷デザインには、同社独自のマークを付けて認定する。この「色覚ユニバーサルデザイン」を加えることによって、同社の進めている環境対応印刷と合わせて社会環境、自然環境の双方に配慮した印刷物の提供を実現する。これにより更なる拡販を目指すとともに、環境対応型印刷会社として、他社との差別化を図っていく方針である。


水なし印刷の現状についての
まとめとその展望

昨今の環境に対する社会的意識の高まりにより、顧客側からの水なし印刷のニーズは確実に増えている。サーマルCTP化が進み、刷版時における調子再現性が上がったことにより、水なし印刷の品質が受け入れられ易くなったということも要因の1つにある。しかし、その用途はIR関係や環境報告書などまだまだ限定的であり、今後、バタフライマークの使用を他の品目に広げることが更なる普及につながると考えられる。
水なし印刷の導入ペースは、需要があるにもかかわらず、やや鈍い。その要因の1つにコストがある。版材料費自体は水あり版とはほとんど変わらないが、市場に出回っている数の差がその価格差(水あり版の1.2倍〜1.5倍の価格)の要因となっている。版メーカーが東レ1社に限られていることもコストが下がらない一因であろう。また、冷却装置の後付けもコストが高い。ただ、ここ4〜5年に販売された水あり印刷機にはあらかじめ、この設備が搭載されており、この冷却装置の有無が水なし印刷導入数の分岐点に成り得る可能性はある。資材、印刷機単体で見るとコスト高が目立つが、実際は、トータルコストでは水ありとほぼ変わらない域まで来ている。この先、ケミカルレス版の登場により現像液も不要となり、利益率ではむしろ水なし印刷に軍配が上がっていくとみられる。コスト高というマイナスイメージを打破するためには、今後は、経営コンサルティング要素を含んだ普及活動が必要になってくると思われる。
他の要因としては、印刷会社の水なし印刷に対する意識の問題である。版やインキの品質は向上しており、以前に比べて運用性は上がってはいる。しかし、実際はまだ水なし印刷は難しいという意識が印刷会社間ではあるようだ。それは、業界内の「印刷文化」が影響している。初期設定さえ整えれば数値を管理していくだけで品質を保つことのできる水なし印刷を「管理印刷」とすれば、水あり印刷は印刷オペレーターによる「熟練印刷」である。その「熟練印刷」への慣れが、数値管理に対する苦手意識を植え付けたと同時に、新たな印刷方式である水なし印刷の参入を妨げてもいる。この苦手意識をどのように克服させるかも普及の焦点になると思われる。
印刷品質は技術革新や長年のノウハウの蓄積によって、安定期に入ったと言える。導入している印刷会社では、特に水なし印刷指定がなくても水なし印刷方式で印刷しているが、顧客の反応は全く問題ないようだ。資材においても、年々開発が進んでおり、ノンVOCインキなどより環境に配慮した製品が発売されている。ただ、発売後間もないということもあるが、その使用量は少ない。ノンVOCインキを使用する場合、その前に使用していた鉱物油を含んだインキを残さず洗い流す作業が発生する。所謂特色と扱いが同じとなり、しかもそれが全胴となると作業効率は上がらないのは容易に想像できる。また、鉱物油を含んだインキは洗い油で洗浄しなくてはならないため、ノンVOCインキを使用するためにVOCを発生させてしまうというジレンマが起きる。このインキを活かすためには、ノンVOCインキ専用機として社内の印刷機を割り当てることが必要である。水なし印刷関係者は、ケミカルレス版やノンVOCインキを水なし印刷のシンボルとして掲げ、普及活動に努めたい意向を示している。
水なし印刷の普及率は、日本WPAの会員登録数の増加から年々上がってきているとみられる。ただ、導入企業数はまだまだ少ないと言っていいだろう。理想を言えば、水なし印刷は印刷方式であって、企業の差別化要因になるのではなく、水あり印刷に変わって主流の印刷方式になる、つまり、環境に良いことが当たり前になることが望ましい。これが実現すれば、印刷産業の社会的存在感は増すだろう。しかし、印刷業界は典型的な中小企業型であり、資材や設備転換の必要な水なし印刷の導入が裾野まで広がるとは企業体力の問題上考えにくい。日本WPAの言うように、まずは流通している印刷物の20%を水なし印刷方式で印刷することを目指すべきだろう。そのためには、水なし印刷の品質面をもっと訴えていく必要がある。現状、品質面のPRは、環境面のPRに比べて弱い印象がある。溶剤使用とは関係ないデジタル印刷機などの普及によって、今後は、環境面のPRだけでなく、品質面でのPRも同時に行わなければ、水なし印刷の選択優位性を保つのは難しくなってくると考えられる。また、この品質面でのPRが、IR関連物や環境報告書以外の用途拡大に向けての特効薬に成り得ると思われる。

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